教授に聞いてみました

神学部で教えている先生に質問してみました

         「愛」と想像力

教職には なにが重要なのでしょうか?

この質問に、神学部の片山はるひ教授が答えます――。

片山 はるひ
神学部神学科 教授

■先生のご専門は何ですか。神学部教授になられるまでどのような勉強をなさったのでしょうか

 私の専門は、キリスト教文学とキリスト教の霊性です。上智大学では、フランス文学を学び、フランスに留学して帰ってきた時は、フランス語とフランス文学を教える予定でした
専門は、ジョルジュ・ベルナノスというカトリック作家です
それが、運命のいたずら?いえ、神様の不思議なご計画により!人間学を教える部署、当時文学部にあった人間学研究室に雇っていただくことになりました
 人間学という総合的な授業を教えるのは、大変なチャレンジ、率直にいえば、地獄の3年間が待っていました。。。哲学、キリスト教学はともかくも、心理学、死生学、生命倫理、環境教育など、今まで学んだこともない分野を教えるために、人生で一番勉強した時期かもしれません。その時に学んだことは自分という人間の教育にもなり、今ではこの時期から人間学という授業にかかわってきたことに深く感謝しています。神学部に入ったのは、この人間学研究室と神学部が2009年に合併したからです
 自分自身の苦労の経験から、中高で宗教を教える新米先生たちの苦しみはよくわかります。それが、今、神学部の教職課程や宗教科教育法にも気合いを入れてかかわっている理由です
 また、霊性の方は、私が所属するノートルダム・ド・ヴィという会が、カルメル会の霊性を社会の中で生きるという奉献生活の会なので、入会した時から霊性神学を学んできました。特に研究したのは、リジューの聖テレーズの霊性です。また、学生をワールド・ユース・デイや巡礼に引率し、テゼや、ルルド、ローマ、アシジなどを訪れる中で、現代に活きる霊性についても研究・考察してきました

■キリスト教文学を講じてこられて、印象深い体験がありましたか?

 わたしは、キリスト教文学を広い意味で捉えています。つまり、敬虔な信者の書いた文学とか、キリスト教について触れている文学だけではなく、神への渇きや問いかけのある文学はキリスト教文学であるという立場です
 それで、たとえば太宰治やイヨネスコを扱ったり、児童文学のミヒャエル・エンデを取り上げたりもします。授業の中でうれしいことは、文学を通して、キリスト教の深さやおもしろさを学生が発見してくれることです。そして自分の人生を見つめ直したり、苦しみの意味を考えたり、生きる励ましを得たりと、神の力が学生の心の内で働くのを見て、キリスト教文学を教える意味や生きがいを感じてきました

■先生が教壇で大切にしておられるのは何でしょうか?

 「自分が知っていることを教えることは良い。だが、自分が愛していることを教える方がもっと良い。」これは私がフランスで論文指導を受けてお世話になったジャック・シャボ先生からいただいた言葉です。以後、大学の授業の場でも、この座右の銘を心に刻みつつ30年間の教員生活を送ってきました。良い教員になるための、始めに必要不可欠なものは、自分の愛しているものを伝えたいというこの情熱ではないかと思っています
 そしてこの情熱が単なるひとりよがりな思い込みにならないためには、愛していることを「本当の愛」をもって伝える、というのがつぎに問われることでしょう
 「本当の愛」は、人気取りでも、甘やかしでも、パフォーマンスでもありません。私の経験においても、本当に愛のある先生方は皆厳しさのある、要求の高い先生達でした。上智大学の仏文科でそういう先生方に育てていただけたことを、今でも感謝し尽くすことはできません
 普段の努力に培われた実力と、失敗から学ぶ謙虚さ。日々改善を続ける忍耐力、そして想像力がその厳しい「愛」の根底にあると思います

■先生は教職課程の担当教員としてご活躍です。教職をめざす学生へのメッセージをお願いします

 私は文学者なので、想像力の大切さについて、教員を目指す人には特に語りたいと思います。物語を読むことは、一つの世界を体験することです。架空の出来事の中に入り込み、様々な状況や心理を「体験」することで、私たちの想像力は養われてゆきます。この想像力こそが、「思いやる」ことのできる能力の基礎なのです
 「人から無視されることはどういうことなのか」それがどれほど「死にたいほどっらい」ことなのか、こういう「体験」がないならば、いじめは決してなくなりません。ビデオや映画を見るだけでは足りないのは、自分で自分の心の中にこの体験を時間をかけて落とし込んでいかなくてはならないからです。それには、やはりそういう体験のできる本を読むことが必須となります。教師を目指す人達には、実生活の中の様々な体験とそれに加えて、読書から得られる豊富な体験をして欲しいと願っています
 教職は、単なる就職先の一つではなく、一つの使命(mission)であると私は思っています。そして、人を育てるという、このmissionは、常に困難でありながら、生きがいを与えてくれるものです。「教育は、一番根底で社会を支える活動なのだよ。」と私の尊敬する先輩が言ってくれました。本当にそう思います。ですから、どれほどの困難があっても、決して教育をあきらめてはならないと思う今日この頃です

※『課程センターニューズレター』第12号(2021年春)掲載の記事を著者自身により再編集しました

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