教授に聞いてみました

神学部で教えている先生に質問してみました

     世界の多様性を知るために
        Diversity of the world

戦争、宗教対立、テロリズム。人類は争いから解放されないのでしょうか?

この質問に、神学部のアガスティン・サリ教授が答えます――。

※サリ教授は2016年秋学期に、神学部から総合グローバル学部に移籍されました。
引き続き神学部の科目を担当してくださっています。

 


冷戦が終わってから3年後の1992年に『歴史の終わり』という本が出版されました。著者はフランシス・フクヤマというアメリカの政治学者です。彼はこの本の中で、民主主義政治体制と自由経済が最終的に勝利し、安定した社会が構築され、戦争やクーデターなどは生じなくなる、そのような大きな闘争の歴史としての歴史は終わる、という仮説を提示しました。しかしその後、さまざまな戦争、事件が起きているのは、皆さんよくご存知ですね。ここでの歴史とは弁証法的イデオロギー闘争史としての歴史の話でありますが、私はこの仮説にある民主制政治体制への肯定的な評価に賛同します。

なぜかというと、民主制の前提は、自由と平等だからです。この前提を達成するために必要なことは何でしょうか? それは教育です。世界ではまだ8億人近い人々が字を読めないのです。さまざまな情報に自由にアクセスできる権利が不平等な世界では、民主制はうまく機能しません。そういう意味で、世界はまだ「歴史の終わり」への途上にあると考えられるからです。

しかし、悲観的な話ばかりではありません。「先史時代から現代まで、統計的に人類の暴力による死者は持続的に減少し続けており、そして現代は人類の歴史のなかで最も平和な時代である」――スティーブン・ピンカーという心理学者が『暴力の人類史』という本で、そう説いています。私たちの毎日の実感とは距離のある仮説ですが、人類の歴史という長いスパンでみれば、争い、暴力は確実に減っているのです。その理由のひとつとしては、人類の「精神」が進化してきたからだということが挙げられています。

この本の原題は「The Better Angels of Our Nature」、私たち人間に備わっている善き天使、とでも訳しましょうか。もちろん武器や暴力はその威力を増していますが、人間に備わっている善き天使的側面はそれを抑制することができるのです。さまざまな宗教対立や民族紛争を理解するためには、私たちはまずこの多様な世界を認識する必要があると思います。そして、教育を通してこの「善き天使」の活動を増やし、この多様性が争いの源ではなく、世界の豊かさの源泉であることを人々が理解する日が来るという希望を、私は持っています。
                                      (2017年度大学案内より)